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〔スタッフ研修〕群馬県 土田酒造×和食日和おさけと

2024年6月23日

群馬県利根郡川場村の土田酒造様を訪問させていただきました。
杜氏の星野元希様が施設内をご案内くださいました。

原料処理室

白衣に着替え、まずは甑のある原料処理室。
とても広々した空間です。昭和後期までは、3000石を醸せる大きな造りをしていたのだそう。
現在は600石ほどの生産量のため、ガス式の蒸米機を4台の使用されています。
一つ一つの蒸米機は小さめで、最大でも500kgほどしか蒸せないものです。
大きすぎる蒸米機は蒸し上がりにムラが出てしまうこともあるため、あえて小さめのものを使用しているとのこと。
大量生産する普通酒も、出品酒と同じ蒸し方をしたいという、先代蔵元から続く思いが表れています。

こちらは米を蒸し上げる前に仕込み水を浸漬させる機械。
土田酒造は酒合好適米ではなく一般米を主に使用していることと、低精白のお米を使用するが多いため、通常よりも長時間吸水させます。
(短くても3時間、長いものだと一晩じっくり吸水させるんだとか)
昨年は夏の暑さのため米が硬く、一晩以上吸水させるときもあったそうです。

続いては甑(こしき、米を蒸すための道具)をご案内いただきました。
甑は4機あり、蒸米した後は甑をリフトに乗せ放冷機に移しています。

麹室にて。

短時間でつくる透過力の高い総破精麹

続く麹室や酒母室では、土田酒造の微生物との対話による酒造りを伺いました。
画像は今季の役目を終えた麹室。
土田酒造の製麴時間は41時間と、通常の吟醸造りで一般的な48~60時間と比べて短いです。


では、なぜ通常より短い時間で製麴が可能なのか。

まず、麹菌が他の蔵元より強い麹菌を使用しているからです。
焼酎用の白夜という麹を使用しています。
強い麹菌を使用している+麹菌を多く振っていることで製麴時間を短くしているのです。

たくさんの種麹を使う分、製麴時間が長くなると、コウジカビのカビ臭が強く出てしまうので、あえて短時間で仕上げています。

こちらは、農家さんが畑に粉を降るときの道具。
このような機械を駆使して、たくさんの種麹を蒸した米にふりまき、力強く糖化力の高い米麹を作ります。
この製麴方は、秋田の新政酒造で勉強されたそうです。

製麴のまとめ

①使用しているお米が基本一般米(溶けにくい)+低精白(溶けにくい)
②溶けにくいお米を使用しているので溶かすために強い種麹使用している
③強い種麹のため、製麴時間が⾧いとお酒の味が重くなる。
「お米の味わいを感じるが、飲む時は軽やかに」というコンセプトのお酒を造るために、上記3点を理由に製麴時間が短いのです。
そのため、溶けやすいお米の酒合好適米の山田錦、高精白によりさらに溶けやすくなるのに、あえて溶けにくく造る吟醸造りの矛盾というお話を聞いて面白いなと感じました。

最先端の蔵元ならではの「分析室」

まず基本的な日本酒度、酸度、アミノ酸度測定。
ここでグルコース濃度と酵母の致死率も調べているそうです。
このグルコース濃度は糖分を示すので、グルコース濃度とアミノ酸度のバランスで味わいの感じ方が分かりやすくなる。
グルコース濃度が低くても、アミノ酸度があれば甘みのような味わいを感じます。
アミノ酸は旨味やコク、それこそ甘みに感じることもあるので、アミノ酸をしっかり出す造りをする土田酒造には必要なデータなのです。
また、酵母の致死率も見ているのは老香(ひねか)に関係があるからだそう。
酵母が死滅したときにのみ発生するアミノ酸が老香に関係するため、菌体数、死滅率をデータとしてとっています。
星野杜氏曰く、「老香自体完全なマイナス評価ではないと思っているが、どうして発生するのかの原因を調べるのが大事。造りがうまくないのであれば(前例のない造りを行っている土田酒造だからこその発言だと思います)分析をしっかり行うのが大切。」

土田酒造は飯米、低精白などと、どちらかというと現代というより機械が揃ってなかった昔の造り方に近いです。
しかし、最新のデータ分析を行うことで、伝統ある日本酒造りを尊重しつつも新しいお酒造りにアップデートしています。
また、遠心分離機も保有しており、生酛造りだとサンプルに必要な液体がとるのに困難なため、その際に使用しているそうです。

酒母室でのおはなし

続けて酒母室では、
乳酸菌と酵母のお話を伺いました。
土田酒造は、ほぼ全量きもと造り。
さらに酵母無添加のお酒も数多く手がけます。
一般的に酵母無添加の造りの話を他蔵で聞くと、「添加していた時代が7号酵母だったので、蔵付き酵母はその進化版のような感じです」
というようなお話が多いのですが、
土田酒造の蔵付き酵母は、協会酵母とはまったく違う、とても強い野生酵母。
どう強いかと言うと、キラー酵母と言われ、純粋培養された協会酵母を駆逐してしまうような強さ。
協会酵母でのお酒造りをしていたつもりが、いつの間にか蔵付き野生酵母が混入し、取って代わられてしまったということがあったそうです。

きもと仕込みによってまずは乳酸菌を増やし、十分に増えてから協会酵母を加えるのが通常の作り方ですが、野生酵母が強すぎるため、乳酸菌が増えつつある途中の段階で早めに酵母を加えるなど、星野杜氏の試行錯誤でこの野生酵母との共存の仕方がわかりつつあるそうです。

野生の酵母、野生の乳酸菌で醸すお酒は、日々微生物との闘い。
もろみの発酵中に突然乳酸菌が増えてしまい、もともとの計画とは違う、酸の高いお酒が生まれてしまうことがあるそうです。

そうして生まれたお酒が「Tsuchida F」。
杜氏は今後も意図して作ることはなく、「できればもう作りたくない」、と話します。

こちらははじめたばかりの木桶仕込み。
地元の木を使い、福島の仁井田本家さんと作った木桶。
地元の木を使って木桶を作りたい、という蔵元は多いそうですが、木桶に使用するにはなかなか条件が厳しく、吉野か秋田のものを使うことが多いんだそうです。
利根沼田のこの土地の木を木桶にすることができたのは本当に幸運だったと、土田社長がSNSで語っておられました。

見学を終えて

星野杜氏をはじめとする土田酒造のみなさま、貴重な経験をさせていただき、本当にありがとうございます。
以下は参加したスタッフの感想です。

大門浜松町店ホールスタッフ

今回は、星野杜氏と弊社社長が「東京バイオテクノロジー専門学校」という縁でつながったということもあり、微生物の発酵による話を中心に伺いました。
土田酒造さんには、ほかにも地元の米を使うこだわり、常温でも味わいの壊れないお酒をつくるこだわりなど、語りつくせないお酒への思いがたくさんあります。
YOUTUBEや日本酒関連のポッドキャストなどで、土田社長や星野杜氏をの想いを聞くことができます。
土田酒造のお酒を飲んでおいしいと感じた方にはぜひ、少しでもこの想いを伝えていけるよう努めていきたいと思います。

霞ヶ関店調理場スタッフ

土田酒造の蔵見学に行かせていただきました。
自分の土田酒造のお酒のイメージは 菩提酛などの造りや、酸が強くて味が濃く味醂の様な印象でした。
今回杜氏さんにお話を伺う事が出来て情報量が多かったですが色々と勉強になりました。
強い乳酸菌が出てきても廃棄せずにそのまま絞ってみて色々対策してその後の経験として対応策ができるようになったそうです。
麹菌の使用量については一般的な造りよりも30倍以上使用して他の菌が繁殖するスペースをなくす事でリスクを軽減しているので麹室も殺菌しなくても造りができるそうです。
他にも酒母を造る時間を短縮することや、全ての酒類の酒母を1つの冷蔵庫で保管する事 そしてとても研究熱心でしっかりデータを取ってその後の対策とする等、約2時間強ものすごい情報量で、日本酒に詳しく無い自分には理解でない事が多かったのですが、杜氏さんのお話がとても上手で楽しく学ぶことができました。

神楽坂店ホールスタッフ

今回、星野杜氏が全て案内してくださり、専門的なお話ではありましたが丁寧にわかりやすく案内してくださり終始勉強になる蔵見学でした。
蔵見学でしか学べないという言葉がピッタリの内容で、特に製麴のお話は教科書ではこの造り方が正解だが、実際造りたいお酒を表現する場合はその工程は必要ないなど丁寧に1から説明いただけたので、すっと頭に入ることが多かったです。

神楽坂店ホールスタッフ

蔵内部に入ってすぐ、印象的だったのは安室奈美恵の曲が大音量でスピーカーから流れている事でした。
「酒に音楽をきかせる蔵はきいたことあるとおもいますが土田酒造では人間が楽しく働くために音楽をかけています」
音楽をききながら作業することでポテンシャルがあげて単純作業から飽きやケアレスミスをなくしているとのことでした。
星野杜氏は酒造りに対しておもしろい、楽しい。
という言葉をよく使われる明るい方でした。
一見豪快のようですが酒造りとなるとかなり緻密で合理さをかねそろえた印象でした。
星野杜氏の失敗から本質を理解して次に至り正確さを追求、さらに合理化を図っていくアグレッシブな姿勢を間近でみて、よっぽど自分はふんわり蔵見学にきてしまったなと至らなさを感じてしまいました。
星野杜氏が酒造りに楽しさを見出しながら真摯に向き合って作られた土田のお酒を飲食店の人間としてお客様にどのようにおすすめするのか真摯に考えていきたいと思いました。

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